乳酸は疲労物質?|マラソン後半で乳酸はもう出なくなっている

東京マラソンまではあと2ヶ月ちょっと、その翌週が名古屋ウィメンズマラソンですね。師走もあっという間に過ぎ、いよいよ2020年がすぐそこまできています。

今日は「乳酸」についてです。
乳酸と聞くと「疲れたときに出ているやつ」という風に思われるかたはどのくらいいらっしゃいますか?

以前は、無酸素運動のときにたくさん出て、脚がパンパンになって、「疲労物質だ」と言われていましたが、今は昔。
現在は、「エネルギー源」としてちゃんと理解をしてもらっています。

よく陸上競技の400mは究極の「無酸素運動」とか言われますが、完全な「無酸素運動」や完全な「有酸素運動」は存在しないということも、少しずつ理解されてきています。
※今は「有酸素運動」や「無酸素運動」という言葉は使いません。

Developing endurance. National Strength and Conditioning Association(NSCA);Ben Reuter, editor. Human Kinetics. 2012. Figure 2.3 Lactate Profile of professional cyclist. より

このグラフは、プロの自転車選手が4分ごとにWatts(ペダルの重さ)が上がる各ステージで、心拍数と血中乳酸値がいくつだったかを示しています。
Stage1からStage4までは、心拍数(実線)は直線的に増えていますが、血中乳酸値(点線)はほとんど変化していません。この時、乳酸は出ているものの、エネルギーの基である乳酸をエネルギーに替える作業がしっかりと間に合っているという状況です。あれ、「強度の低い有酸素運動では、脂肪が使われて・・・」とか聞いたことありませんか?でも乳酸は出ています。つまり、いつでもある程度糖が使われているということです。

エネルギーを供給しているシステムは大きく3つ(カッコは昔言われていた分け方で言うと)、「酸化系(有酸素)」「解糖系(有酸素と無酸素の間)」「ATP-CP系(無酸素)」があり、必要に応じて「割合」を変えて働いています。なので、どれかが100%ということはなく、それぞれが得意な強度の時に高い割合で働き、他の強度でも自分ができることをして働いてくれているということです。

グラフに戻りましょう。次に、Stage5からは徐々に血中乳酸値は徐々に増え、「曲線的」に増えています。これが血中乳酸値の変化の特徴で「乳酸カーブ」と呼ばれます。この乳酸が増加しはじめるタイミングが「乳酸性作業閾値」と呼ばれているポイントです。「LT(Lactate Threshold)」とはこのことです。
ここからは、乳酸をエネルギーの基として再利用するスピードが少しずつ遅れてきているため、血液の中にある乳酸の数値が高い状態になってきています。

ちなみに、ランニングで測定した場合に、血中乳酸値2mmol/dl前後がフルマラソンのペースになるとされています。2mmol/dlの強度(スピード)は、長時間続けることができる強度ではありますが、それでもマラソンの後半になると疲れて脚が前に出なくなってきます。

運動生理学を専門分野とし、「乳酸代謝」や「運動と疲労」について長年研究されている、東京大学の八田秀雄先生(東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学研究室)は、日本体力医学会の教育講演でマラソンの後半について次のように述べられています。

運動の疲労は乳酸以外の要因で考えた方がよい場合が多い。その代表例としてマラソンなどの疲労がある。マラソン後半の疲労はグリコーゲン濃度が低下することが大きな原因となる。グリコーゲンが低下すると乳酸もできなくなるのであるから、マラソン後半はより乳酸ができない中で疲労していることになる。サッカーなどの球技もマラソンほどではないにせよ長時間にわたり運動するので、後半は筋グリコーゲンが少なくなってきて、やはり乳酸がよりできない中で疲労している。

八田秀雄, 乳酸をどう考えたらよいのか. 体力科学(2010)59, pp8-10.より一部引用

マラソンの後半の後半になると、エネルギーも枯渇し、使える糖(グリコーゲン)も少なくなり、使える乳酸も少なくなってきています。つまり、「乳酸が出てるから疲れる」という状況ではなく、乳酸はエネルギーの基になるものとしてとても大切ということです。

マラソン完走を目指したランニングなどの持久力トレーニングでは、最初に紹介した3つのエネルギー供給システムの良いところを伸ばしながら、この乳酸の再利用能力を高めるために強度や時間を設定してプログラムを作ります。決して乳酸を「出さない」カラダをつくるとか、乳酸が「出ない」走り方を練習するという単純なものではありません。

心拍数を測りながらトレーニングすることも、ペースやパワーなどいくつかのテストをしてトレーニング強度(ゾーンなど)を決めることも、カラダの中での反応を可能な限り正確に予測しながら目的をクリアするためにとても大切なものす。
みなさんにも、カラダの正しい情報を少しでも多く知っていただき、ウェアラブルデバイスなど最新の技術と上手く組み合わせて活用していただきたいと思います。

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